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社長室から:マレーシア人材事情と日系企業の課題その2

Posted 約1年 前 by Nobuaki Onishi, MD, JAC Malaysia

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マレーシア人材事情と日系企業の課題
 

【はじめに】

201710 月に実施した「コア人材確保に関するアンケート」の結果について、今後 2-3 回に分けて分析・説明する、というのが当初の予定でおりました。

このところ当地のマーケットも変わりつつあることから、まずは最近の状況と、それに付随する日系企業の抱える課題をご報告したいと思います。

【在マレーシア日系企業の業績と採用見通し】
日本貿易振興機構(JETRO)による 2017 年 12 月 21 日付けの「2017 年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」 (*) によると、在マレーシア日系企業の 74%弱が [昨年度の営業利益見込み] を黒字とし、また半数以上が [この先 1-2 年間の事業が拡大する] としています。
(*) 対象 ASEAN9 ヶ国を初めとしたアジア・オセアニア地域 20 ヶ国に進出する日系企業。

有効回答は 4,630 社 (回答率 38%)。うちマレーシアは 227 社(構成比 5%)。

ちなみにマレーシア中銀は 3 月 28 日に、2018 年の実質 GDP 成長率予想を 5.5~6.0%と発表しました。

一方で課題は以下の通り。トップ 5 を上げてみます。( は各国で最も高い数値)

ちなみにこの数年、マレーシア人商工会議所(JACTIM)と JETRO クアラルンプール事務所が共同実施した年度別の「在マレーシア日系企業アンケート調査」でも「賃金上昇によるコストアップ」が常に 1-2 位に入ってきています。

現地従業員に関わる今後 1 年間の予定について、マレーシアで「増加」とした企業は 47%(全体では 44%)、「横這い」が 41%(全体 47%)となっており、引き続き採用意欲は高いとみていいと思います。

他の ASEAN 主要国との比較は以下の通りです:

マーケットを俯瞰するための統計データがないため、当社で取り扱い実績のあった企業(日系、欧米系、地場)からの求人動向について説明します。 ( 単位: %)

引き続き「売り手市場」が続いています。2018 年 1 月時点の失業率は 3.4% (マレーシア統計局) で、2016年以降ほぼ 3.3~3.5%の間で推移しています。

マレーシア人現地スタッフの基本給は、概ね以下の通り:

  • 社会経験 3~4 年の人: 基本給 RM(リンギット)3,500~
  • マネージャークラス: 同 RM5,000~8,000 のレンジ

当社で取り扱っている基本給レンジ別比率ですが、季節要因に左右されない第 3 四半期の比較で見ると、その傾向が明白にわかります。もちろん当社自体がより高額帯にシフトしてきているというのも要因ではあります。

基本給 RM5,000 以上は、Manager クラス及びその上の層。RM10,000 を超えると General Manager、いわゆる部門長クラスとなります(もちろん企業によりレンジは異なります)。

2013 年はこの層が全体の 3 分の1でしたが、昨年は 3 分の 2 近くまでに増えています。特に Senior Managerや General Manager クラスの伸びが顕著です。

この要因としては以下が上げられます:
(1) 日系企業で設立後 20 年超の企業においては、コアとなる管理職クラスの世代交代を進める必要があるものの、設立時のメンバーが上層部に張り付いているため、次世代の中間管理職が育っていない。その為既存従業員よりも給与の高い中途採用で補完している。

(2) ファクトリーオートメーションや IOT への対応、新プロダクツ開発のための R&D 要員、高度化する生産管理対応など、より良質・高度な技術者・管理者へのニーズが高まっている。

(3) コスト削減や現地化推進のための駐在員代替要員の確保。

以上に加え、
(4) 大学卒業から 1-3 年は方向感が定まらない求職者が多く、結果短期間での離職率が高いことから、当社のような人材紹介会社は使わなくなってきている(当社も積極的に扱わない)。

 

【新しい動き】
(1) シェアードサービスセンター
コスト削減の観点から、グループ企業の共通業務(経理や人事関連)を集約、処理を行うシェアードサービスセンター(SSC)という形でマレーシアに設置している企業がこの数年増加、それに伴い多言語人材(日本語、中国語、タイ語など)への求人が多くなっているのも最近の特徴です。業界としては欧米系を中心に、製薬会社、化学、クーリエ、IT、旅行業など多岐に亘っています。もちろん日系企業でも数社進出済みです。

(2) マレーシア人の日本での就労
また、日系企業では、ここ 2-3 年の傾向として、優秀なマレーシア人(新卒やエンジニア)をマレーシア法人経由で日本本社にて採用。技能習得後マレーシアに送り返して研究開発やエンジニア・製造部門のコア人材として育成する企業が増えてきています。中には日本での就労を基本とし、必ずしもマレーシアに戻すことを前提としない企業もあります。

先般頂いた求人ですが、中華系マレーシア人を日本に送り、中国をはじめアジア各国へのマーケティング担当として活躍してもらいたい、というものです。中華系マレーシア人は、中国語・英語両方に堪能であり、特にニーズが高い。これに日本語が話せるとなると、日系企業だけでなく、日本マーケットを攻めたい欧米系からも多くの求人を頂戴しています。

以前ご報告しましたが、2016 年 3 月 20 日付けの日経新聞では、経産省の調査として 「日本の大学で学んだ外国人留学生のうち、学部卒の学生の7割が日本での就職を希望しながらも、実際には3割しか就職していない」 という結果を伝えています。 日本で直接アプローチするのも一法だと思います。

【人事・人材面での課題】
前述の通り、より高額帯への求人が増加してきている一方で、日系企業については採用の決定率が下がってきている、というのが我々の実感です。

(1) 人件費はコスト?
売上原価に含まない人件費=固定費 であり、これが売上に対して低ければ低いほど利益は上がります。これをもって「人件費はコストだから、とにかく減らすのがベスト」、とお考えの経営者も少なくありません。残念なのはそこに「ヒトに対する投資」という観点が欠けていることです。本社によるグローバル人事制度や、地域本部による地域横断的な人件費管理を進めている企業も増えてきました。そのこと自体いい流れだとは思いますが、あくまでも、「各地域の実情が反映されていれば」、「それによって競争力が高められれば」、という前提。

仕事柄多くのマネジメント層にお目にかかりますが、そのグローバル人事制度がうまくいっている例はまだまだ少ないようです。本社が一方的に各職位・職務別の給与レンジを設定、それを超える給与オファーはよほどの事がない限り承認されない、というケースをこのところ大手の 3 社で伺っています。その結果何が起こるかというと、欠員補充や新規プロジェクト立ち上げによる人員を採用しようにも、給与レンジがマーケット水準から乖離しているため優秀な人材が確保出来ないというものです。
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当然そのしわ寄せは日本人駐在員に来ており、皆さんかなり過酷な労働条件の中でやっておられます。
Work-life balance など別世界のようです。本社の管轄部署や人事部の方々は、現場をよく見て頂きたいと思います。死語になったと思っていましたが、いまだに「OKY (*) 」と声高に訴えたいと思っている出向社員は少なくないようです。 (*) O (おまえが) K(ここに来て) Y(やってみろ) の略

(2) 人事経験者の不足
そういった制度を取り入れていない企業でもいろいろ不具合が起きています。2015 年 10 月に当社グループが ASEAN5 ヶ国の日系企業 480 社から頂いたアンケート結果があります。それによれば、日本からの出向者で「人事部門での勤務経験者」がいる企業は 58 社、12%に過ぎませんでした。また「部門長の立場で採用面接に携わった人がいる」企業も 164 社、34%の水準です(2016 年 3 月 21 日 ASEAN 日系企業におけるコア人材確保と課題 その1 をご参照下さい)。

その為、人事制度設計や報酬制度などローカル人事任せになっているケースが多い。マネジメント層の意向を汲んで、組織の活性化や競争力強化のための人事制度を自ら提案、それを遂行するような人事部であればもちろん問題はありません。実際そういった人事部門、部門長がいる企業は少数派。その結果、特に設立後 20 年、30 年経過した現地法人では、長いこと制度・体系の見直しがなされず、気がつくと報酬体系がマーケットから大きく乖離、新しい血を入れようにも採用が進まない、といったケースが増えてきています。

特にこの 1 年間、優秀な人材をご紹介しても、あと RM 200・300 上乗せできず成約しないといったケースを何度も見ています。そういった人材は、結局+1,000 とか 2,000 とかで欧米系企業が採用しています。(当社としては最終決まってくれれば売上になるのでいいと言えばいいのですが、同じ日本人として、かかる優秀な人材を日系企業にお送り出来なかったことに悔しさを覚えます。)

(3) 本社・地域本部の役割
日本本社や地域本部が現地法人のジュニアスタッフの採用にまで口出しすることも問題として上げておきたいと思います。
【現地化の推進=現地への権限委譲とそれに伴うタイムリーな意思決定】であり、本社や地域本部は、グループ人材育成や制度設計などをサポート、後は現地に任せることが肝要ではないでしょうか。その為にも、マネジメント層へは赴任前の人事研修(採用・面接、評価・報酬、組織、労務管理など)を授けることで、現地での人事政策推進がより容易になって来ますので、是非時間を割いてもらいたいと思います。